5.ステレオとモノラル

今回は「ステレオとモノラル」について。
単語として聞いたことはあっても、説明できる人って意外と少ないんじゃないかと。
舞台音響に携わる人には当然として、一般家庭でもテレビを観たり音楽を聴いたりするときに実は大きくかかわっている、「ステレオとモノラルって何?どう違うの?」というお話です。

最初にざっくりと結論だけ説明しますと、LRのあるイヤホンやスピーカーで音楽などを聴いてみて、
左右から同じ音が聴こえたらモノラル
右と左で違う音が聴こえたらステレオ
ということができます。

まぁ、これだけで終わっちゃうのもアレなので、どうしてそういうことになるのか、詳しく解説していきます。

まず「モノラル」について。
一台のマイクで録音された音」を「モノラル音声」と言い、
一台のスピーカーで再生する」ことを「モノラル再生」と言います。
これに対し、「ステレオ」とは、
二台のマイクで録音された音」が「ステレオ音声」で、
”ステレオ音声”を二台のスピーカーで再生する」のが「ステレオ再生」となります。

二台のマイクで録音することで、それぞれ微妙に違う音が録音されるんです。
これは人間の耳を再現したような構造になっていて、人間は二つの耳で感知する空気の振動(=音)のわずかな違いを脳が認識して音を立体的に捉えています。
二つの目で距離感をつかんでいるのと同じですね。
この微妙に距離感の違う二種類の音を二台のスピーカーで再生することで、立体的な音響効果が得られる、というわけです。

簡単に言うと、ステレオ方式は「音がどっちから聞こえるかを表現できる」ということになります。
二人の人間が立って話をしていて、どちらが右側に立っていて、どちらが左側に立っているかが音の聴こえ方でわかるというわけです。

↑上図では100%で左右に割り振っていますが、この「割合」を調整することで、例えばAさんの声は「左60%右40%」Bさんは正反対に「左40%右60%」くらいにすると「二人とも正面にいるけど、立ち位置がAさんが左でBさんが右」というニュアンスになりますし、Aさんを「左30%右70%」Bさんも「左15%右85%」にすれば「二人とも右方向にいる」という表現ができるわけです。
これを利用して、この「割合」を連続的に移動させていくことで車や飛行機などが左から右へ移動していく様子も表現できるようになります。
これが「立体的な音響効果」ということですね。
「ステレオ」という単語は「立体的な」という意味があり、正式には「ステレオフォニック・サウンド」という言葉の略語になります。

これに対し、モノラルの場合は一本のマイクで拾った音を一台のスピーカーから流すので、すべての音が混ざって一つの音になってしまい、右とか左の表現はできないんですね。

これは、スピーカーを二台にしても同じこと。

結局二台のスピーカーからは同じ音が聴こえるので、右や左といった概念はなくなります。
つまり、「モノラル」で録音された音声は、スピーカーを何台に増やそうとも左右の概念を表現することはできず、ステレオ再生にはなり得ない、ということになります。

もともとモノラルしかなかったのを音響効果として発展させたのがステレオなのですが、アナログレコードの愛好家など、モノラルにしか出せない”味わい”を楽しむという方もいたりと、どちらの方式が正しいとか優れているとかはないんですよ。
音楽の楽しみ方は人それぞれ。自分の好きな音で聴くのが一番だと思います。

ちなみに、ホームシアターなどでよく見かける「5.1chサラウンド」というのは、ステレオの「左右」に「前後」の概念を加えてさらなる臨場感を追及したもの。
「5.1」とは、「右前」「正面」「左前」「右後ろ」「左後ろ」に5台のスピーカーを配置して、さらに迫力を出すために重低音専用のスピーカーも1台配置(これを0.1としてカウント)した音響システムのこと。
最近ではこれに「上下」まで加えたサラウンドシステムも研究中だとか。

余談ですが、「モノラル」とは本来「片方の耳で聞く」という意味で、「両方の耳で聞く」という意味の「バイノーラル」という言葉の対義語だったりします。
ステレオ、つまり「ステレオフォニック・サウンド」の対義語としては「モノフォニック・サウンド」が正しい言葉になります。それが色々と混同されるようになり、「ステレオとモノラル」が今では一般的に使われていますので、わかりやすさ重視で今後も「ステレオとモノラル」表記で統一していきますね。

余談その2。
「ステレオタイプ」という言葉がありますね。
よく「男らしさ、女らしさ」などの話に使われる言葉です。あとは血液型診断なんかもそうですね。
実はこちらは「ステロ版(Stereotype)」という鉛版を使用した印刷術が語源となっていて、「先入観」「固定観念」などと似た意味になります。
要は型を作って印刷すれば大量に同じものが印刷されるので、日本語で言う「判で押したような」と同じ意味の言葉なんですね。

これも余談になりますが、家庭にあるテレビやビデオ、オーディオ機器などを繋ぐケーブルに、赤と白のやつがありますよね。
あれはステレオ音声用のケーブルで、「赤い方をRRight=右)」「白い方をLLeft=左)」に繋いでくださいね、という目印です。
間違えて逆につないでも機器が壊れたりすることはないのですが、例えば映画やドラマを見ていても、
「映像では右から声をかけられているのに声は左から聞こえる」など、映像と音声とがちぐはぐになってしまうんですね。
それを防ぐため親切に目印をつけてくれてあるわけです。
なお、テレビやビデオ、ゲーム機などの場合、赤と白に加えて「黄色」がついて3本セットになっていますが、「黄色」は映像用であり、赤白とは役割の違うケーブルになりますので、そこは繋ぎ間違えないようにご注意ください。


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